『同性愛の謎』

なぜクラスに一人いるのか 同性愛の謎 (文春新書)

なぜクラスに一人いるのか 同性愛の謎 (文春新書)

別にあなたがゲイに目ざめる可能性があるといわけではない。私個人としては、あなたが目覚めても良いと思うが。実は私も困惑している。家で一昨日、この本を読んでいたら、タイトルを見た妻が思い悩んだ顔をし始め、数時間後に「そっちもいけるの」と神妙な顔で聞いてきた。昨日、朝飯を食べているときも、夕飯を食べているときも。本と実生活は何の関係も無いのに。何も悪いことしていないのに。「女性と浮気するよりはいいわ」などと言われても、どう答えてよいかわからない。たぶん、「そっちはいけない」だろうし。「ニューハーフならいけるかもな」とでも答えればよかったのだろうか。いまだによくわからないが、確かなのは私自身、同性愛に関心が低かったことだろう。

さて、本書では同性愛者(バイセクシャル含む)は子孫を残す可能性が異性愛者の5分の1程度なのになぜ常に一定の割合が存在するのかという謎に迫っている。最初に書いておくが、この本、同性愛者やら専門家には評判があまりよくないらしい。ネットを叩けばいろいろと批判も出てくる。確かに、やたら文中に「!」が出てくるし、同性愛者の感情を逆なでしかねないのではと危惧される表現も散見される。私にはよくわからないがトンデモ論文ばかり参照しているとの指摘もすくなくないみたいだ。

ただ、性に悩まず平々凡々と生きている異性愛者にとって見れば、同性愛自体が透明な存在である面も否めないだろう。関心を持つ糸口が無ければ、同性愛に対する理解は深まらないのが現状ではないか。そのような意味では著者の視座は良くも悪くも異性愛者には興味深く、すんなりと入り込める。文章も読みやすく、構成もよく考えている。例えば、第一章第一項は「まずはペニスサイズを測定する」である。定規を持ち出したのは私だけではあるまい。第三項は「今夜一緒に過ごしませんか?」である。それはちょっと困る。「おいおい何が書いてあるんだ」という世界である。正直、1章を読むだけで本書の価格の740円の価値はあると私などは思ってしまう。噴飯ものだと怒る人もいるだろう。ただ、繰り返しになるが、関心を少しでも持たなければ正しい理解もなにもないのではなかろうか。